音を、伝える人が、語る、音。

言葉に……できない(小田和正風)

  • 中谷 琢弥
  • あめのもりたけし

聴く時って何を聴いてるんですか? “どう聴いてる”というか。

その質問ね。うん、言いたいこと分かる(笑)

ていうのもね、人それぞれじゃないですか、聴き方って。僕なんかはプレイヤー出身なんで、楽器を無意識に分析してる。トラックの部分です。プレイヤーの耳なんですよね、まだ。「あ、ここのドラムはこのパターン?」とか。「あ、ここでこのエフェクトなんや」「このアルバムの鳴りは低音が絶妙」とか。

僕はね。仕事的に言うならば、“耳にとまるかとまらないか”なんです。だから基本的に何かをしながら聴いてます。

へ〜。“ながら”というか。

そう。それで「あ、いいな」と思った人のをもう一回聴き直す。「対・音楽」だけで聴くことはまずない。仕事してる時は音楽はできるだけ聴きたくないし。何かを書いている時は音楽は鳴らない場合が多いんです。もちろんレビューを書く時は、対象のCDは聴きますけどね。最後のまとめの時とかは、ほんとに何も聴かない。気が散るんで。

そうなんですね。

プラスの意味で言うと、音楽に持っていかれるんでね。だから、“耳にとまるかとまらないか”ですね。

それで言うと結構とまりますか?

とまりますよ。とまる場合は。

それって、何にとまってるんですか? 何ってわけでもなく?

音の鳴り方……かな? 音の鳴り方とメロディーかな?

うん、そうなんです。やっぱりそうでしょ? でもそれを考えると難しくて、やっぱり「音の鳴り方」とか「メロディー」とかで心を掴まれてるわけじゃないですか。けど、それを文字にして紹介する時には……

そう。メロディーなんか言えないですから(笑)

言えないんです(笑)。いや、たぶん厳密に言うと言えるんでしょうけどね。メロディーを説明するための言葉っていうのは多分ある。「ハ短調がどうだ」とか、「そこから○度逸脱した旋律が〜……」みたいな。よく分からないですけど(笑)。ただそれを説明するのはナンセンスであって。

そうですね。

≫≫≫≫

レイジなんかは難しい存在よなぁ。彼らのアーティストとしてのアティテュードばっかりがフィーチャーされて曲としてのクオリティーがあまり語られへん。まあ、あそこまで思想ありきのバンドならメンバーもそれで本望なんかもしらんけど、それを全部抜きにしてもレイジはめちゃめちゃカッコいい。だって我々日本人のほとんどは英語分かれへんにゃから。
それをしっかり言えてる文章にあまり出会ったことがないわ。レイジって必ず《思想》の文脈で語られるやん? 俺からしたら、そこはあくまで付加価値なんやけどね。単純に《音》のことを言え、と。リズムとかメロディーとかコードとか、そういう純粋に《音》に迫ってくれ、と。音楽なんやから。ミュージシャンなんやから。逆に「その思想があるからこそ、楽曲があそこまでかっこいい。つまり楽曲のことだけを語るのは本末転倒や!」って主張する人もおるかもしれんけど、一概にそうとも言われへんような気もします。

『愛!愛ありゃこそ!イーアー!!』より抜粋)

ここに一つの矛盾というか、食い違いがあって、ひとつの大きなポイントですよね。僕がよく出す例としては、レイジ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)の音楽を伝える時に、彼らの思想の話ばっかりするでしょ? そこはあくまで付加価値なんですよ。それやったらギターのソリッドな鳴りとか、ベースとドラムのタイトなリズムのとり方とか、フォーカスすべきはそっちやろ、と。だって英語は分からないじゃないですか。ザックが何を言ってるかは分からない人が日本では大半でしょ? 彼らがうたう“政治云々”っていうのはあくまで“プラスα”だと僕は思ってる。“思想家批評”じゃないですからね。“音楽批評”であって。

ん〜、けっきょく思想の話の方が簡単なんですよね。だってミュージシャンって何も考えてないんでしょ? 曲を作ってる時って。

何も考えてないですよ。ぜんぶ後付けですからね。ほんとに少数をのぞけば。

そうでしょ? で、後付けで話すのであれば、思想の方が話しやすいでしょ。

そうですね。でもやってる側はそれをほんとに知ってほしいのか……。知ってほしいから表現してるんでしょうけど。

その“後付け”は当たり前のことですし、だからこそ「後付けろよ!」って思うんですよね。それは彼らにとって仕事なんでね。音楽を作るだけじゃなくて、メディアに話をするっていう仕事なんで。

インタビュー中に引き出せないこともありますか? 「こいつ、何も後付けへんな」みたいな。

ありますね。

そんな時はどうするんですか?

すぐ終わりますよ。

アハハハハハ!!!

うん(笑)

でも大きな流れとして、思想性の高いアーティストの方がメディアは大きく取り上げますよね。

それはね、記事にした時にその方がおもしろいから。

でも、ミュージシャンの生活からしたら、音の事を考えてる時間、つまり音符やリズムのことを考えてる時間と、思想のことを後付ける時間を比べると、前者の方が圧倒的に大きいわけじゃないですか。

う〜ん、でもそこは見せたくない、っていうのもあるんじゃないですか?

あ、なるほど。

それに言葉にできないんで。

ん~……

……もう……妥協?

アハハハハハハ!!!!!!!!

みんなの妥協点なのかもしれない(笑)


【第3回】「モチベーション=ギャラの場合」を読む