音を、伝える人が、語る、音。

良い音楽の定義付け

  • 中谷 琢弥
  • あめのもりたけし

中谷君がインタビューしてて、必ず聞くことってありますか?

えっとね。一時期自分に課してたのは、絶対ではないけど、「アンダーグラウンドとはなんですか?」っていうのは、そういう人たちにあった時には必ず聞いてましたね。

ほ〜、「どう定義付けますか」みたいな。

そうそう。セオ・パリッシュだとか、オクタブ・ワンとか、みんな聞きました。ベースメント・ジャックスにも聞いたし。その終わりはジェフ・ミルズだったんですよ。もう僕の中でその質問は終わったんです。

答えが出たんですか?

そうなんです。もう、“打ち砕かれた”というか。ジェフ・ミルズはね。「言い訳」って。「単なる言い訳。自分がしたいことができない状態」って言ってました。セオ・パリッシュは「自分たちがやりたいことができる場所」って言ってました。メジャーっていう大資本に振り回されずに。これは真っ当な答えですよね。だいたいみんなそういう感じのことを言うんですよね。「自由な場所」みたいな。でもジェフ・ミルズはね。あのジェフ・ミルズが(笑)それで解き放たれましたね。

なんでそれを聞き始めたんですか?

「アンダーグラウンドってなんなんやろ」ってずっと思ってて。僕はアンダーグラウンドが好きですし。「今はアンダーグラウンドなんかないよ」っていう物言いも分かりますし。まあそういう単純なところからですよね。僕はアンダーグラウンドっていう言葉は使えない。便利な言葉ですからね。卓球さんが「インディーとアンダーグラウンドを一緒にするな」っていうでしょ?

そうですね。

The Bells / Jeff Mills

でも、なんとなくそこの美学がもともとあったんでしょうね。アンダーグラウンドの美学が自分にあるのが分かってたんで、ずっと聞いてたんです。今はないですけどね。マイノリティー思考はないんで。

マイノリティ思考みたいなものは僕にもないんですけど、やっぱりね。すごいベタなことを言いますけど、ええもんって売れへんなー、ってつくづく思いますけどね。「まだこんな感じかー」って。

まあそうですね。

じゃあその「“ええもん”ってなんやねん」っていうところもなかなか難しいじゃないですか。

そうですね。例えばパクり倒しててもかっこいいものはある。雨森の本にもくるりのことで書いてたけど、ラッドウインプスにしても「パクリ、パクリ」って言われてて、僕も嫌いでしたけど、はじめて聴いたら良かったんです。はじめてきいた時にパクリ放題やと思いながらもめちゃめちゃかっこ良かったんですよね。一昨年かな? 一昨年の一番の衝撃でした。

そこで、プロである側が「良い音楽ってなんやねん」っていうところを、ある程度導いてあげないといけないと思います。

その定義付けは案外簡単で、逆説的ではあるけど、つまりは「プロが認めた音楽」ってことやと思いますよ。

あー、出た! そうなんです。そこですよね。

そうです。そこへの責任感っていうか。それだけの影響力って持っていいと思うんです。だってめっちゃ聴いてますもん。おかしいくらいの量を聴いてますから。たとえば僕が知ってる某音楽専門誌の編集長はサンプルを山のようにもらいますけど、それこそ新譜はほとんどすべてと言ってもいいくらいもらえる。でも、それにプラスしてCDを月に80~100枚買うって言ってたんで。

それで言うとね、たとえばソニーが新人を出しました。ビクターが新人を出しました。めっちゃしょうもない子もいるでしょ。

いますね。しかも売れます。お金をかければほとんど売れます。

その時には必ず誰かプロのライターがそのしょうもない音楽を推してるわけじゃないですか。そんなことをしてると、素人を正しい方向に導けないんですよ。

ん〜……そうですね。そこは……素人に読み取ってもらいたい。「金かかってるだけやな」って(笑)

それしかないですか(笑)。僕もね、なぜそういうところにストレスを感じてこうやって話をしてるかっていうと、中谷君と同じで「ミュージシャンを助けたい」っていう気持ちが大きくて。僕もずっとバンドをやってて、それで飯食いたいなと思いながらやってて。けど良い音楽をやってても生活ができないっていう人もたくさんいて。もちろん飯食おうと思ってやってない人もいるでしょうし、良いか悪いかっていうのは一概には言えないですけど、「ええもんはええ」っていうのを多くの人がちゃんと理解できる土壌があるに越したことはないじゃないですか。

それはそうやね。

そこで、しょうもない音楽をプロのライターが「良い!」って言ってしまうと、ダメじゃないですか。素人はなびいてしまいますから。アホですからね(笑)そこが歯がゆい。金をかけたら回収しないといけないし、そうなるとたくさん売らないといけない。資本主義の原理とぶつかってしまう……。

あ〜、でもこっちはね。ぶっちゃけると葛藤とかはないんですよね。たぶん誰もないと思いますよ。文を売ってる人は。

あれ。そうなんですか? でもめっちゃくだらんCDをよく書かないといけない。売れるように導かないといけない……。

すぐ終わりますから(笑)

そっか(笑)それ、名前が載っててもいいですか?

いいですよ。もしそれで「中谷、この前、くだらんの推してたな」って突っ込まれたら初めて考えるくらいで。

「こんなん推してて、あいつ信用できへんで」って思われる可能性も孕んでるじゃないですか。

まあねぇ。まあでも……いいかなぁ。ディスクレビューだと基本は持ち込みなんで、まあ大体は自分が好きなのなんでね。

へ〜、大体持ち込みなんですね。

雑誌によるけど、僕の場合は持ち込みの方が多いかな。枠だけがもう用意されてる。


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